三冠馬にもっとも近かった二冠馬
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エアシャカール 三冠馬に最も近かった二冠馬
僅か7cm――これはエアシャカールが日本ダービー(G1)で涙をのんだ、悔やんでも悔やみ切れない差である。
皐月賞(G1)・菊花賞(G1)を制しながら、三冠を逃した”準三冠馬”は、実は三冠馬よりも数が少ない。その中でも、エアシャカールは最も三冠に近づいた二冠馬だった。
父から譲り受けた産駒特有の気性の悪さが、この僅かな差を埋められず、常に天才を悩ませながらも二冠馬に輝いた底しれぬ実力。
史上もっとも三冠馬に近かった二冠馬。今回は、そんなエアシャカールの記憶を振り返りたい。
能力と気性難で評判
父は言わずと知れた大種牡馬サンデーサイレンス。
母は現役時代は大きな活躍を見せられなかったが、繁殖牝馬としてはノーザンテーストとの間に重賞馬エアデジャヴーを輩出したアイドリームドアドリーム。
その父は米国で活躍したウェルデコレイトという血統背景から、1997年2月26日に北海道の社台ファームでエアシャカールは誕生した。
栗東の森秀行調教師の元で管理されることになるが、その良血馬は、デビュー前から能力の高さと同時に気性の荒さも評判となった。
その悪評ぶりは、森厩舎の調教助手たちが「今日のエアシャカール担当」をくじ引きで決めるといったくらいである。
それだけの気性難でありながらの良血馬に対し、主戦騎手となる天才・武豊騎手は、のちに「サンデーサイレンス産駒の悪いところが全部集まったような馬だったんです。とにかく真っ直ぐ走ってくれないし、乗りにくいことこの上ない。頭の中を見てみたい」と語るほどだった。
ただ、武豊騎手はデビュー戦前の調教で騎乗した際に「これは将来絶対に重賞を勝つぐらい走る馬になるだろうと思った」とも語っており、やはりエアシャカールは高い能力と気性難の紙一重だったことがわかる、そんな競走馬だった。
評判通りの活躍も…
デビューは1999年10月31日東京競馬場の新馬戦だった。
しかし、ここでは5着に敗れるものの、続く2戦目の未勝利戦で初勝利を挙げる。
その後、条件戦で2着、暮れのホープフルステークス(当時OP)を勝ち、2歳時は4戦2勝に終わるが、早くも前評判通り、クラシック候補の1頭に名乗りを連ねた。
年が明け、3歳になったエアシャカールは皐月賞トライアル・弥生賞(G2)でフサイチゼノンの2着に入り、皐月賞への優先出走権を獲得。
その皐月賞では、ここまで5戦4勝の成績でフジキセキ産駒として注目を浴びていたダイタクリーヴァと差のない2番人気に支持された。
レースでは、最終コーナーで外から捲り上がると豪脚で抜け出し、内にもたれる悪癖を見せるもダイタクリーヴァとの競り合いをクビ差で制し、GIを初制覇した。
とはいえ、この皐月賞は、弥生賞を勝ったフサイチゼノンが右橈骨遠位端骨膜炎で出走回避し、3番人気だったラガーレグルスは頭絡がゲートにひっかかってしまい、スタートができずに競走を中止している。
そして、エアシャカール陣営は、早くも皐月賞後には、日本ダービーを経て、英国のキングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドS(英G1)に出走するプランが発表されると何かと話題の多い皐月賞となった。
僅か7cmの差
予定通り、エアシャカールが向かったのは、20世紀最後の聖戦と謳われた日本ダービーでは皐月賞馬として1番人気に支持されたが、レースでは最後の直線を大外一気で馬群を抜け出し、二冠達成が濃厚と思われたところでさらに外から河内洋騎手騎乗のアグネスフライトが強襲してくる。
『河内の夢を運んでくれる!』との実況の通り、数々のビッグタイトルを手にしてきたベテラン河内騎手は、これまでダービーとは無縁。
一方の武豊騎手は、前々年のスペシャルウィーク、前年のアドマイヤベガに続き、前人未到の日本ダービー3連覇がかかっていた。また、河内騎手と武豊騎手は兄弟弟子との関係も何ともいえない競馬のロマンが詰め込まれている。
そして、2頭のマッチレースはゴール前までもつれ込み『河内の夢か!豊の意地か!どっちだ!』との名実況が競馬ファンの心に突き刺さる。それほど激しい大接戦となったゴール前だった。
結果は、僅か7cmの差でアグネスフライトに凱歌が上がり、エアシャカールは惜しくも二冠を逃してしまう。
ちなみに鞍上の武豊騎手は、最後の直線を抜け出してから一気に内側にササり、今度は並走となったアグネスフライトに対し、外側にタックルを仕掛けてアグネスフライトを押し出しに行く格好となった。その結果、最後の方はしっかり追えてなかったのである。
レース後、武豊騎手は「勝った馬には迷惑をかけてしまいました」とコメントするほど、エアシャカールの気性難が出なければ、と思わされる悔やんでも悔やみ切れないレースとなった。
強行の海外遠征
惜敗のダービーを終えたエアシャカールは、予定通り渡英し、キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドSに出走した。
ただし、日程の都合上、強行出走となったため現地での前哨戦に出走できず、調整不足が否めなかったかも知れない。
さらには、相手が昨年の凱旋門賞(仏G1)でエルコンドルパサーと死闘を演じたモンジューやファンタスティックライトら世界の強豪馬とあって明らかに分が悪く7頭中5着に敗退。その後、凱旋門賞の登録もあったが、ここは断念し帰国した。
三冠馬にもっとも近かった二冠馬
8月末に帰厩したエアシャカールは、休む間もなく菊花賞トライアル神戸新聞杯(G2)に出走。
ここでは、アグネスフライトとの再戦になったが、フサイチソニックの3着に敗退。2着はアグネスフライトでレース後に武豊騎手は「気性面で成長が見られない」とのことだった。
ちなみにこれで4連勝となった上がり馬フサイチソニックだが、レース後に屈腱炎を発症し、早期引退となっている。
それ以外でも日本ダービー3着のアタラクシアは、神戸新聞杯1週前に右前脚に異常を発生して戦線離脱。また、ラガーレグルスは屈腱炎で菊花賞を前に引退し、青葉賞(G2)を制したカーネギーダイアンも蟻洞発症で秋絶望となった。
そして、春の実力馬として皐月賞3着のチタニックオーも屈腱炎で長期休養中であり、皐月賞2着のダイタクリーヴァも距離不安から早々に菊花賞への不出走を表明していた。
さらには、菊花賞トライアルのセントライト記念(G2)を勝った全兄にアドマイヤベガをもつアドマイヤボスまでジャパンC(G1)を目標にしたことで菊花賞を回避。
こうして、ダービー馬アグネスフライト以外の有力馬が次々に回避した結果、菊花賞出走予定の重賞馬は僅か4頭となり、オープンクラスを勝った馬ですら半数を切ってしまい、未勝利クラスを勝ち上がったばかりのゴーステディが中2週で菊花賞に挑戦してくるという状況に。20世紀最後のクラシック菊花賞はエアシャカールとアグネスフライトの一騎打ちムードになった。
その菊花賞でエアシャカールは、好位の内ラチ沿いで道中を進めるといった作戦に出た。
これは武豊騎手が「エアシャカールは右にヨレたがる」という癖を見抜き、予めリングハミを装着し、レース中も内ラチ沿いを走って右にヨレないようにしていたのだ。これは、エアシャカールが右にヨレてしまう気性の悪さを理解しての好騎乗となった。
それが功を奏し、内から伸びてきたエアシャカールは、伸びを欠いたアグネスフライトを横目にトーホウシデンとの叩き合いをクビ差で制した。
こうしてセイウンスカイ以来、2年ぶりとなる二冠馬に輝いたエアシャカール。そう思うとやはり日本ダービーの僅か7cmが今でも悔やまれるだろう。
そして、この二冠馬にとって、菊花賞が最後の勝利になるとは誰が予想しただろうか。
不甲斐なき二冠馬
菊花賞後は、ジャパンC(G1)に出走したエアシャカール。
しかし、ここにはG1・3勝を含んだ6連勝中だったテイエムオペラオーやG1・2着続きのメイショウドトウも参戦し、その対決が大きく注目されたが14着と惨敗。
翌2001年には、主戦の武豊騎手が海外に騎乗拠点を移した年にもなった。
そんな年明け初戦の産経大阪杯(G2)では、トーホウドリームの2着と上々の滑り出しとなったが、次走の天皇賞・春(G1)では8着、続く宝塚記念(G1)でも5着に敗れた。さらに秋には、輸送性の肺炎を患ってしまい、全休となる。
5歳となったエアシャカールは、前年同様に産経大阪杯から復帰し2着と復調したかにみえた。
しかし、続く金鯱賞(G2)では、ツルマルボーイの2着に敗れ、宝塚記念でもダンツフレームの4着。秋には、天皇賞・秋(G1)で4着、ジャパンCでも12着と大敗。
最後は有馬記念でも9着に敗れ、気付けば菊花賞を最後に重賞10連敗を喫してしまい、この有馬記念を最後に現役を引退するのだった。
その血は途絶え…
引退後は種牡馬として供用されたが、引退から僅か3か月後の2003年3月13日、放牧中の事故により左後脚を骨折、安楽死の処置が取られた。
何とも早すぎる突然の死であろうか…
残された産駒は全て牝馬で僅か4頭。その内の3頭が中央競馬入りを果たしたが、残念ながら現在では、その血は途絶えてしまっている。
僅か7cmで三冠馬を逃し、それでも世代最強馬として走り続けたエアシャカール。
しかし、その7cm決着が、あまりにもドラマ的であり、まさに競馬のロマンそのものだった。
そして、アグネスフライトとの激闘――20世紀最後の聖戦となった第67回 日本ダービーは永遠に語り継がれるに違いない。
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サンデーサイレンス | Halo | Hail to Reason |
Cosmah | ||
Wishing Well | Understanding | |
Mountain Flower | ||
アイドリームドアドリーム | Well Decorated | Raja Baba |
Paris Breeze | ||
Hidden Trail | Gleaming | |
Tobacco Trail |
生涯戦績 20戦 4勝(4-6-1-9)
主な勝鞍 皐月賞、菊花賞
※記事内の馬齢表記は、当時のまま現表記+1としている。
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